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《海外コミック読書ガイド第四回 戦争編》イベントレポート

8月24日に開催された第4回「戦争編」。多くのお客様にご来場いただき、登壇者のテンションもかなり上がりました。ご来場いただきまことにありがとうございます。今回は「戦争」がテーマでした。国や個人によっては戦争は誇りであったり、反逆であったり、はたまた青春であったりと立場によって戦争観も多様ならば、それがコミックとして海外で描かれた戦争はどのようなものなのか。
 そんなことを2時間にわたり三作品に絞って解説をしました。

 イベントはフランスの国民作家のタルディが描いたコミック『塹壕の戦争』『汚れた戦争』(共和国)について、本書を編集、出版された共和国下平尾直さんがビール片手にした解説で幕を開けました。本書の厭戦感と「戦争」を冷たく描く視線、第二次大戦後の生まれであるタルディがフランスにとっての偉大な戦争であった第一次世界大戦への加害責任を問う痛烈な批判精神、日本の戦争漫画との大きな違いなど、大きく頷くことばかりでした。そして翻訳者の藤原貞朗さんも登場し、タルディの政治的スタンスにも明言。作家の戦争、ひいてはフランスへの強いメッセージを明瞭に解説していただきました。

 

アランの戦争』(国書刊行会)の解説は原正人さん。

アラン・イングランム・コープという一個人の記憶を作家エマニュエル・ギベールが聞き取り、コミックと仕上げた本作。戦争でありながら戦闘がほとんど描かれない戦争コミックで、戦時のヨーロッパながら牧歌的ななかでアランが兵役につきながら成長と懐古、そしてそこでであった友人たちへの思いを綴る構成。注目は、ここで描かれるのはアランの「記憶」と「思い出」であること。そこには語られていない、語りたくないことがあったのではないかということ。ゲストのタダさんによる、アランの足取りから、一歩間違えば激戦の地に向かっていた人生の分岐点、そしてもしかするとアランの部隊は人に語れないようなことをしていたのではないかという考察も挟まれ、本書における読み方の深さを感じさせてくれるお話でした。

 

ペルセポリス』(バジリコ)はイランに生まれたマルジの成長と、自国と留学先のヨーロッパとの間で揺れるアイデンティティと祖国へと家族への思いを描いた著者による自伝コミック。椎名ゆかりさんによる3分で分かるイランの歴史解説と、マルジの家族がどのような政治的立場であったのかを解説。本書を読むまえに知っておくとより楽しめる情報でした。
また山口侑紀さんからはドイツ留学時代に実際に体験したイランの大統領選挙にまつわるお話や、その際に作られた『ペルセポリス2.0』についてのお話も。

イベントの途中には山口さん編集、原さん翻訳のバンドデシネ最新刊『見えない違い 私はアスペルガー』の紹介や、先ごろ刊行されたバンドデシネ『MUNCHムンク』の翻訳者枇谷玲子さんが登場して本書刊行の経緯などをお話になり、またイベント終了直後には同じくバンドデシネ『スターリンの葬送狂想曲を翻訳された大西愛子さんから本書の解説があるという(本書のレビューを店長鈴木が書いているのでめちゃくちゃ恐縮してしまいました)、海外コミックファンにとってとても豪華なイベントとなりました。

 

次回のテーマはLGBTQについて海外コミックを取り上げます。お楽しみに。

「COMICSTREET」さんのイベントレポートはこちらhttps://comicstreet.net/review/event-report/comics-leading-guide-4/

 

塹壕の戦争 1914-1918/汚れた戦争 1914-1918

タルディ/著 藤原貞朗/訳

共和国 3,564円/3,780円

戦記コミックの金字塔。第一次世界大戦の“リアル”を徹底的に描き出して、「コミックのアカデミー賞」と呼ばれるアイズナー賞を受賞したフランスの巨匠タルディの代表作、ついに日本初上陸。この戦場の“リアル”を直視することから、いま、私たちの現代史は幕を開ける。

アランの戦争 アラン・イングラム・コープの回想録

エマニュエル・ギベール/著 野田謙介/訳
国書刊行会 2,700円 ISBN 

ある日、ギベールはひとりのアメリカ人、アラン・イングラム・コープと出会い、親交が始まる。アランの戦争体験を聞いたギベールはBDにすることを申し出る。ギベール30歳、アラン69歳のときだった。生涯を大きく決定した戦争体験という青春の日々―訓練で出会った戦友たち、フランス・ドイツ・チェコへの行軍で知り合った人びととの交友―を振り返るアランの人生が、淡々と、ユーモラスに彩られていく。節制された筆致で、戦争のなかの日常の記憶がアランの声とともに再生し、見事に結晶化された、戦争バンドデシネ作品の傑作。

ペルセポリス 1 イランの少女マルジ 

ペルセポリス 2 マルジ、故郷に帰る

マルジャン・サトラピ/著 園田恵子/訳
バジリコ 1,512円/1,620円

子どもの頃、革命がありました…戦争がありました…人がたくさん死にました…。イスラーム革命、イラン・イラク戦争…激動の時代を斬新なタッチで描いた注目の回想記。12ヶ国で出版された世界的なベストセラー待望の翻訳。

見えない違い 私はアスペルガー

ジュリー・ダシェ/原作 マドモワゼル・カロリーヌ/作画 原正人/訳
花伝社 2,376円 ISBN 978-4-7634-0865-5

マルグリット、27歳。
本当の自分を知ることで、私の世界は色付きはじめた。
アスペルガー女子の日常を描く、フランスでベストセラーになったアスペルガー当事者による原作をマンガ化!
「アスピー」たちの体験談と、医師による日常生活へのアドバイスも収録。

MUNCH

ステフン・クヴェーネラン/作・画 枇谷玲子/訳
誠文堂新光社 2,160円 ISBN 978-4-416-51850-2

世界的に有名な名画のひとつ『叫び』を描いたエドヴァルド・ムンクの伝記グラフィックノベル。ノルウェーで最も権威ある文学賞“ブラーゲ賞”のノンフィクション作品賞受賞!!常に向き合い続けた「生と死」、描くことへと突き動かした「狂気」共にその時代を生きた錚々たる芸術家たちの声が、天才画家「ムンク」をあぶりだしていく―

スターリンの葬送狂騒曲

ファビアン・ニュリ/作 ティエリ・ロバン/画 ロリアン・オレイル/〔ほか〕彩色 大西愛子/訳
小学館集英社プロダクション 3,240円 ISBN 978-4-7968-7734-3

1953年、粛清の恐怖渦巻くソビエトで、独裁者スターリンが死んだ。スターリン亡き後、次に支配者の座に着くのはいったい誰なのか。権力にとりつかれた男たちの権謀術数渦巻く政治ドラマの幕が開く!フランスで絶大な人気を誇る実力派ライター、ファビアン・ニュリが描き出す限りなく真実に近い狂乱のポリティカルドラマ!

 

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